「羊と鋼の森」めっちゃいい話!

いつも「読んでよかったなー」って本の感想文をブログで書いてるのですが、このたび「読んでよかったなーオブ読んでよかったなー」な本に出会ってしまいました。

羊と鋼の森

羊と鋼の森

 

タイトル見て、はじめ何のことは解らなかったのですが、「羊と鋼の森」とはつまりピアノの中のことで、この物語は主人公の外村君が、高校二年生のある日の放課後、(学校でも人生でも)やるべきことがないのでなんとなし校内に残っていたところ、体育館のピアノを調律しに来た板鳥さんという調律師の仕事に感動し、自分も調律師を目指す成長の物語です。

人が死ぬような事件は起きないし、心をざわつかせるような鬱な展開もない。ただただ、一人の若者が職人として自立していくお話です。

高二の外村くんが調律師になる夢を叶えるまでは数ページです。調律師としてスタートを切ってから、自分をこの世界に招いた板鳥さんという凄腕がいて、比較的歳の近い気さくな先輩がいて、ちょっと理解に苦しむ偏屈がいて、世話を焼いてくれるオネーサン肌がいて、という職場で世間一般に「キャリア」と呼べる3年までの物語です。

ぼくは普段、あんまり本に付箋を貼ったり線を引いたりしないのですが、今回ばかりは心に留めたいフレーズが多すぎて、付箋片手に読みました。いくつか紹介したいです。

だけど、あれを、美しいと呼ぶことを知った。それだけで解放されたような気持ちだ。美しいと言葉に置き換えることで、いつでも取り出すことができるようになる。(20ページ)

このままこの森に倒れてたとえ呼吸を止めてしまっても木の実は落ちるのだ、と思ったら解放感が足下からじわじわと這い上がってきた。僕は自由だ、と思った。(32ページ)

あきらめる理由がない。要るものと、要らないものが、はっきり見えている。(85ページ)

才能ではない、努力だ、と諭された。ピアノを弾けても、弾けなくても、熱意があっても、なくても、耳がよくても、悪くても、訓練さえすれば誰でもスタートラインに立つことはできるのだ、と。(95ページ)

「才能っていうのはさ、ものすごい好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものとにてる何か。俺はそう思うことにしてるよ」(125ページ)

自分の頭で考えられる範囲内で回収しようとするから、努力は努力のままなのだ。(195ページ)

これでも付箋の一部です。全部挙げるとあらすじになっちゃうのでやめます。 

他にも「目や耳や肌で感じるこの世界の美しいものって、文章だけでもこんなに表現できるんだ!」とハッとさせられる箇所がたくさんあります。特にピアノの演奏のシーンの表現とかすごいです。

なんか、こちらの心も美しくなっていくような気がしました。心のデトックス。今のぼくは普段の二割り増しくらい輝いてるんじゃなかろうか。上質な時間をありがとうございました。

 

追記

「いい本に出会ったし、次いくか!」と思って他の本に手を取って気がついたんですが、この本、紙質がなんか優しいですね。指にざらっとこないけど、つるつる滑ることもない。今までもあったかもしれないんですが、初めて気が付きました。これも、この本ぜんたいが醸し出してる優しさの一部なのかもしれないっすね!