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美術館好きにとって一気読みせずにはいられない小説にまた出会いました

本の感想

何気なく図書館で手に取ったらもう面白すぎて読む手が止まりませんでした。忙しい時になんてことをしてくれたんだ。

近代の西洋絵画が大好きな人にぜひお勧めしたいです。 

かぜまち美術館の謎便り

かぜまち美術館の謎便り

 

舞台は香瀬町という過疎化が止まらない田舎町。自然豊かで人々は暖かいが緩やかに死に向かっていっているっていう、なんか地方都市に住んでる人にとっては身につまされるような、よく見かけるような景色が脳裏によぎります。

そんな町に新しくできる美術館に館長として就任したのが佐久間さん。彼にはかえでちゃんという保育園に通う娘がいます。かえでちゃんの担任のカホリ先生。カホリ先生は、子供の頃からこの町に住み、この町が廃れていくのをずっと見てきてます。周りの人たちは若い彼女が町から出て行かず、ずっと独り身でいることを心配している様子。でもカホリ先生はこのままでいるつもり。なぜなら、彼女は大好きだった18年前の当時中学生だった兄を、10歳の時に亡くしているんです。

カホリ先生の兄、ヒカリくんは画家を志していたようで、尊敬する歴史上の有名な絵を下敷きにしながらこの町と住人たちをテーマにした絵をたくさん残しているんですね。ただ、残した絵がちょっと難解すぎたんです。なぜかって下敷きにした絵がゴッホピカソシャガールマチスセザンヌゴーギャンと錚々たるメンバーです。そしてこの時代の絵といえば、目に見えた世界を超えた、コンセプトや解釈といった「読み解く」必要がある絵の時代。そうなんです。「ピカソの絵ってどこがすごいのかわからん」って言われる時代の絵ですよ。なので、ヒカリくんの絵は長いこと町の人たちに理解されずに眠っていたわけなんです。

そこで登場するのが佐久間館長です。ヒカリくんの絵が日の目を見る日がやってきたのです。

そしてさらに、どうもヒカリくんの死がなんかおかしい。心臓発作、ということで処理されているが、死の直前にまるで自分が死ぬことを知っていたかのように異常な速さで絵を描いていたとのこと。そして、ヒカリくんの死の一週間後、この町ではもう一人、当時「ミツバチ」というあだ名で呼ばれていた町の郵便局員が、配達中の手紙とともに失踪しているんです。

なんだかミステリーじみてきました。

こんな過去を背負ったカホリ先生のところに、謎の手紙が届くんです。消印は18年前。そうなんです、兄の死後、行方不明になったミツバチと共に消えた手紙ってわけです。

物語は、この町のあちこちに届くはずだった18年前の手紙がとつぜん届き、その手紙にまつわるエピソードを描いたヒカリくんの絵を佐久間館長が読み解き、18年間止まったままになっていた当事者たちの時間を、また動かしていくオムニバス形式になっています。

そして少しずつ明かされていく18年前の真相。ミツバチはどこへ行ったしまったのか。ヒカリくんはなぜ死んだのか?

もぉね、この佐久間館長がずるいんですよ。普段は寝癖つけたりしておっとりしてるくせに、絵の話になると突然キリッとして饒舌になるんです。また普段の佐久間親子の会話が微笑ましすぎるんです。そのギャップがズルすぎる。

普段ぼんやりしてるくせに、自分の好きなことになったら途端に語り出し、相手にウザがられるどころか自分の好きなものの魅力を存分に伝える。ぼくら文科系にとって最高のイケメンではなかろうか。

どうですか?美術館が好きで、かつミステリーが好きな人にはたまらないエンターテイメント臭がしませんか?ぼくにはクリーンヒットでした。

ぼくは自分が日本画を描いたりイラストを描いたりするせいで、西洋美術よりは日本美術が好きなのですが、この本を読んで改めて西洋美術の良さについて考えました。もちろん、どっちかというと日本美術が好きなだけで、西洋美術が嫌いなわけでもなんでもないんですけどね。

西洋近代絵画の歴史って「写真が開発されたから、これからの絵は写実的なだけではダメだ」と画家たちが試行錯誤を繰り返した戦いの記録ですよね。パッと見ただけでは味わいきれない、難解だからこそ面白いですね。

これは「デジタルでコピーペーストが簡単にできるようになったから、技術を磨くだけではダメだ」ってなってる今のぼくらも参考にしなければならないものかもしれないですね。

最後にこの物語は「うっわ騙された!!!」って展開があります。それは読んでる間ずっと気になってた部分です。これはぜひ味わってもらいたいっす。

本当にオススメ!!